CDC(国立疾病予防センター)レポート

前回までは、日本の人口動態統計やアメリカのNational Center Health Statisticsなどをもとに事故による死亡数、死亡率が高いものを中心にお話してきましたが、今回からはその多くは死亡にまでは至らないが発生数の多い事故についてお話ししていきたいと思います。

その代表的なものが小児の誤飲事故です。アメリカでは古くから、日本でも1986年に日本中毒情報センターが設立され、両国ともに電話による24時間体制の中毒相談を受け付けています。また、日米の比較をしてみると、少し古いデータになりますが、1993年にはアメリカには64ヵ所の中毒センターがあり、年間に総数175万件の相談を受けています。そのうち、0歳の相談は7.4%、1-5歳は53.5%、6-19歳は14.8%と約76%が小児となっています。
 
日本も同様の傾向がありますが、日本には中毒センターはわずか2ヵ所しかなく、年間に総数3万6千件の相談を受けています。そのうち0歳の相談は31.2%、1-5歳は52.7%、6-19歳は3.7%と約88%が小児で、特に0歳児の中毒事故がアメリカの4倍以上起きています。

アメリカでは誤飲されたものの約44%が医薬品で、次いで家庭用品(25.7%)、工業用品(15.5%)となっていますが、日本では家庭用品がもっとも多く全体の約70%を占め、その中でもアメリカではわずか0.5%しかない煙草の誤飲が、日本では約18%を占めています。
一般的に市販の紙巻き煙草1本中には16-24mgのニコチンが含まれており、その急性致死量は成人で2-3本、幼児で1/2-1本といわれていますが、煙草からニコチンが溶けだすまでには時間がかかる、胃の中ではほとんど吸収されない、吸収されてもニコチンの催吐作用により吐き出してしまうなどの理由から重篤な状態になることはまれです。しかし、煙草が浸っていた液体を飲んだ場合は、速やかに体内で吸収されてしまうので大変危険です。また煙草の誤飲の中毒症状は、誤飲後10-60分以内にみられます。

煙草のように体に吸収される毒性のあるものは他にも薬品や洗剤があり、これらを誤飲したときは原則としては吐かせますが、強酸性、強アルカリ性洗剤、ガソリン、灯油などの場合は吐かせずにすぐに病院へ運びましょう。また、体に吸収はされますが毒性のないものとしては、クレヨン、せっけん、鉛筆などがあります。これらを誤飲した場合は、少量であれば取り除き様子を見ます。
体に吸収されないものにはお金、文房具、電池などがありますが、原則としては便と一緒に排出されるのを待ちます。

また、誤飲の発生原因にはその生活様式が大きく関係していると思われます。日本には畳の生活様式があり、いろいろなものが畳や床のカーペット、低いテーブルの上に置かれています。そして、その上で生活している乳幼児は、生後5ヵ月を過ぎると手にしたものは何でも口に持って行く時期となり、その上に置いてある煙草等を口に入れてしまうので、乳幼児にとって危険なものは床上1m以上の手の届かない場所に置くことを心掛けましょう。

欧米には、乳児検診の時に直径32mm、高さ57mmのプラスチックの円筒を保護者に配付し、この中に入る大きさのものは乳児の口に入る大きさなので、地上1mより上に上げておくようにとの指導をしている地域があります。この32mmという大きさは、乳幼児が口を開けたときの最大の大きさで、アメリカ玩具協会の安全おもちゃの基準でもあります。

また、アメリカでは1970年に毒性容器防止法を制定し、危険物質に対して小児用の安全容器の使用が義務づけられました。この法律により、医薬品の誤飲事故を防ぐために、乳幼児が簡単に開けることが出来ないような安全キャップがついた容器の使用や、簡単には取り出せない安全包装をした錠剤などが考案され、小児の薬の誤飲事故による死亡率が45%低下したとの報告もあります。
日本でもこのように、実行可能な事故防止策について検討を行ない、時にはその結果をもとに防止策を法制化し、またそれと同時に適切な処置についての科学的検討を行ない、それらを広く一般社会へ普及させて行くことが、不慮の事故を防ぐ大きな一手立てになると考えます。

                        Yuko Uchiyama, MHS
National Center for Injury Prevention and Control
Centers for Disease Control and Prevention
993-F Johnson Ferry Rd. Suite 240
Atlanta, GA 30340

記事提供:AXIS ATLANTA

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